街灯の亡霊

 しかし、あれは何であったか。闇のなかひそやかに灯る街灯の周りに浮かぶ円い光である。四方形であるはずの街灯の光が夜明け前の一層暗い闇のなかでは円く光る。それだけでも太陽や月が実は丸くはなく、あの街灯と同じように四方形なのではないか?という疑念を抱かせる不思議さがあるのだが、もっと不思議なことは別にあった。それは円い光のその色である。事の初め、私はそれを白い光だと思い込んでいた。しかし暫くの間じっと目を凝らして見詰めているとそれがピンクやオレンジ、緑や黄色などありとあらゆる色の細かい粒子からなっていることに気が付いた。さながら顕微鏡から覗いた微生物のように数多色の粒子は生き生きと蠢いていた。しかしながらそれは夏に死んだ街灯に集まる虫たちの亡霊なのかもしれなかった。死しても尚、悲しい宿命のように光に吸い寄せられていく彼らの透明な羽根が七色に煌き、円い光を形作っているのかもしれなかった。そうした幻想が私の頭をぼんやりと横切り始めたのだがその光を見詰めているうちに私は気が遠のくような眩暈を覚えた。すると急にその光が見てはまずいもののように思われてきて急いで傘を畳むように私は街灯から目を逸らすと振り返りもせずその場を後にした。しかしそんな亡霊たちの街灯は夜明け前の暗いの道の先々に数多灯っていたのである。