鳴き鳩

 家の外から諸行無常の響きが聞こえて来るのは、庭の梅樹の小枝に密かと羽根を休めた雉鳩が一羽寂しく鳴いて居るからである。平素の日は曙の光を重たく翼に背負って目覚め始めた庭にはたと姿を現したかと思うと明朝の勤行を粛々と唱え始め、御天道様が空の頂に昇り切る少し前にはどこか知らぬ場所へと飛び去って行くのだが、今日と云う日は宵の口が間近に迫りつつある現刻になっても物悲しい音韻が網戸や薄壁を通して静謐な私の書斎にまで届けられて来る。暇を見つけては何度も窓の外へと目を凝らして私は梅の木の中に鳩の面影を探して居たのだが、鬱蒼と生えた葉々の緑面に遮られて鳴き鳩の姿は其の影すらも見る事が叶わなかった。唯、枝や葉の隙間から漏れ出ずる憂いを帯びた読経が曇天の暗く淀んだ空の中へと白い線香の煙の様に吸い込まれて行く有り様が瞼の裏に朦朧と映り込んで居ただけである。