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 本当の海は太陽の熱にも月の光にも汚されていない純粋な海は焼けるほど冷たくそして見えない。氷はその本当の海に限りなく近い。見えなければ完璧だろう。その透明な氷、真空が片時も離れず私の周りを覆っている。初めて目にしたものを親だと思い込む家鴨の雛のように顔の無い彼女が何処までも付きまとって追い掛けてくる。だからわざわざ海を探しにいく必要なんてないんだ。誰かにその海の幻影を探し求めることももはや無い。彼女が嫉妬するだろう。恐ろしく長い髪を襞が波打つ黒いロングスカートのように引き摺り青白い両腕をゾンビのように伸ばして声もなくただ熱と光だけを求めて悲しく永劫の闇をさまよっている顔の無い人魚の彼女が。