午睡

 優しさが白いカーテンを揺らした。隙間から陽だまりの庭に置かれた赤い自転車が見える。それは森の切れ間に覗かれる陽の光を満面に湛えた池の畔でひと休みしているかのようである。今にもその自転車の持ち主が欠伸や背伸びなどしながら「やあ、やあ」とこちらへのんびり歩いて来るような、そんな昼の緩やかな下がり道。音もなく打ち寄せた波が砂の窪みに海の子供を残していくように、木漏れ日は毛糸の絨毯が敷かれた部屋に小さな陽だまりを残していった。

 猫がそんな陽だまりのひとつに抱き付いて静かな寝息を立てている。焦げ茶色、黒土色、黄土色、そういった色の端切れを老爺のおぼつかない手が幾晩も継ぎ接ぎし作りあげたぬいぐるみのような毛模様をその猫はしていた。そのようにして生み出される作品は一目にはちぐはぐで乱暴な印象を人に与えるものであるが、だんだんと時間が経つにつれて人はそこに巧者な職人や機械の手によっては決して到達しえぬ奇跡的な調和、味わいを見出すものである。そうした例に漏れずその猫にも深い味わいが纏われていた。それは川に流され、冷たい水に幾日も洗われたのち、岸辺に打ち上げられ、また更に幾日も天日干しにされた流木の木目を思わせた。その猫の随所に現れた黒い模様はそうした流浪と受難の記憶の重い影のようであった。その猫は雪すさぶ日に窓の向こうの庭に現れたのである。