2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

眠る木に 鳴く虫も絶え 更ける夜 月華の琴音は 氷に映えて

揺り籠

揺り籠、ただの籠ではだめだ、赤ちゃんは落ち着かない。彼は泣いてしまう。揺れて、左に大きく揺れたらその同じだけ右に大きく揺れて、右に小さく揺れたらその同じだけ左に小さく揺れて、規則的な幅で揺れていなくては赤ちゃんは落ち着かない。赤ちゃんが求…

秋の池

高い空の雲間から 衰えた陽の光が淡く 藻の深い古池へと降り まどかなる蓮の葉を 宴のあとの皿のように さみしくきらめかせ 微風にそよぐ水面には いにしえの天女たちが やわい裳裾を水脈ひいて 遥かなる遠い笑い声が 水底に微睡む鯉たちを やさしくうつつへ…

ひよどり

雲は厚く 降り始めた 雨の御手先が 枯れた野原を濡らす また冷えた秋の風に ひよどりが狂おしく 禿げた木の上で鳴いている

SNSの現実感

SNSというものも現代人がその意識の多くを割いて滞在させている場のひとつである。電車のなかでスマホの画面に釘付けの彼らたち。その半分以上はSNSをしているのではないだろうか?電車のなかで彼らの様子を眺めているとリルケの「マルテの手記」の図…

すすり泣く落ち葉の声に目覚めれば月の花咲く無手の幽木

夜啼き鳥簾めくりて眺むれば闇を羽ばたく青い三日月

吹きすさぶ 木枯らし抜ける 垣のうら 跳ねては騒ぐ 椿の蕾

鳥もなき暮れ方まえのかすみ空はや目くるめく月はまどかに

現実感の罠

意識の滞在する時間、その量に応じてその対象に感じる現実感は強くもなりまた弱くもなる。そのものと触れ合い、そのもののことを思い続けることによってそのものの現実感が増し、そのものが彼にとって重要なものとなる。しかしそこには危険な罠が潜んでいる。…

現実感というもの

現実感を覚える世界と本当の現実はまるで違うものだ。現実感などはいい加減なもので、結局その強さは対象となる世界にどれだけの時間彼の意識が滞在したかによって決まる。意識の滞在時間が長いほどその場所空間或いはひとりの人物が彼に与える現実感は強く…

白丁花

明けの藤の空に 仄かと咲く白丁花 冷めた青い葉の座敷に 常夜の浮かれ女たちは 崩れたおしろいをなおし ああ風の波が寄せるごと 甘く苦しい夢の吐息が いまだ微睡む蜜蜂たちの 無垢ないのちを揺り起こす

根の喪失と他人の出現

私にとっての絶対的な他者、それは神である。私だけではない。人類、この地球宇宙に存在するありとあらゆる生物及び無機物にとっての他者、それが神である。しかし近代以降、西洋ではその神が死に、つまり絶対的な他者を喪失した。するとどうなっただろうか…

まぼろしの夕焼

灰の花びらを指間から撒いてあてもなくひとり靴も履かずに歩いた風のない野原の終わりは真っ黒な貌の林だった樹冠に色づく葉の群れが赤い火の粉を散らし悪い女たちを焼いていた恨みや苦悶や嘆願や膿んだ空が終わりを吸ってまた更に膿んでいった

咳払い

小さな蝶の羽ばたきが地球の裏で嵐を起こすあれは嘘なんですいつだって嵐の原因は深い井戸の底に棄てられたさみしい骸骨女の咳払いそのかなしい風なんです

奴隷と主人

完全な服従の状態に達した被造物は、それぞれが、この世における神の現存と、知と、わざとの、独自な、唯一の、かけがえのないありようを示す。 ーーシモーヌ・ヴェイユ「重力と恩寵」より 奴隷と主人。一日24時間365日完全に肉体的自由を奪われている…

接吻

僕は窓辺の薔薇で君は窓辺の百合だった二人のキスは禁じられだから二人は蜂を飼った尽きることのない憧れに苦しみ悶える二つの吐息は青い空を自由に巡る小さな蜂のなかで一つに熊さえ殺す毒となる

奇蹟ということ

十字架上の苦しみのさいごの刹那に見捨てられること、どちら側にも、なんという愛の深淵があることだろう。 ーーシモーヌ・ヴェイユ「重力と恩寵」より 或いは反対に彼の絶対孤独を証明するために彼は目の前にある石を割ろうとするかもしれない。私と目の前…

霧雨

霧の雨深々朝の庭微睡む自転車寝返り打つ草の葉古木の迷宮では四十雀があそび鳴きもせず鬼を追う子らの頭へたまゆらの光虫がきらめいては溶けてゆく

石を割るということ

目の前に一個の石が落ちている。私はその石ではなく、その石も私ではない。私がどんなに割れろと念じても決してその石は割れない。私の意思はその石に通じない。それはその石が私にとって他者であるからだ。 とはいえ私がその石を掴み取り、何度も何度も他の…

他者というもの

友情を、というよりも、友情についての夢想を、きっぱりはねのけるすべを学ぼう。友情を望むのは、非常なあやまりである。友情は、芸術や人生がもたらしてくれるよろこびと同じ、価なしに与えられるよろこびでなくてはならない。そういう友情を受けるねうち…

孤絶の塔

Ⅰ 朝の来ない窓を浮かべてかなしい骸骨が沈んでる誰も知らない海の底で魚たちの消えた海の底で Ⅱ かの塔は北の果て鉄の香りの潮風と黒い波が砕ける断崖の岬にあった地を遥かに聳える人はそれを孤絶の塔と呼んだ 塔の首には細長い蛇の雲が幾重にも幾重にも螺…