ソフトクリーム

気が付くと
目の前に車椅子があって
白髪のおばあさんが座り
ぼんやりと
春色に染まり始めた平原を
一人静かに眺めている
時折吹き付ける
生暖かい風が
白い髪を微かに揺らす
しかしその儚げな肩や背中は
忘れられた冬の思い出のように
まるで動くことがなかった

すると視界の端から
とぼとぼと
やはり白い髪の
おじいさんが
ゆっくりと歩いて来る
蒼い染みと深い皺に荒れた
赤黒く老いたその手には
真っ白なソフトクリームが二つ
宝物のように握られている
顔は少年のような笑顔に華やいで
おばあさんのもとに
辿り着いたおじいさんは
そっと優しく
ソフトクリームを一つ手渡した
するとおばあさんの顔も
少女のような笑顔に華やいだ

二人は横に並んで
ぼんやりと
春色に染まり始めた平原を
静かに眺め始めた
ソフトクリームは
二人の陰に見えなくなって
代わりに
強く輝き始めた
春の陽射しの眩しさの中へと
二つの白い髪が
お揃いに溶けていくのが見えた