青い鳥の詩片Ⅱ

過去、twitterに投稿した詩の数々。

古いものから順に置いていきます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

蒼白い指の先が震えるのは不安と胸の高鳴りとその両方と。

小さな肩に重いヴァイオリン乗せているのは小さな少女。

彼女は長い本当に長い永遠の夜を越えて今初めてその翼を手にしたのだ。

一音、一音を抱き締めるように。

一音、一音を噛みしめるように。

彼女は今空を羽ばたく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

天使が死んだ。

空の上の永遠に耐える事が出来なく、

彼はついに爆発してしまった。

止め処なく、まるで終わりがないかのように、

天使、気高き彼の血と肉片が

その断末魔の祈りの叫びとともに降ってくる。

もう間もなく世界は真っ白に染まる。

何も見えない。

時間すらもない。

空の上で彼がひとり見ていた永遠。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

眩暈がするほど青々しい空、

轟々と燃える山吹の花群。

風の吹くたび、

黄色い花びらが火の粉のよう、

ちらちらと蒼褪めた石畳の上へ降り注ぐ。

白い仮面の椋鳥がそんな春の煌きを蹴散らして、

まるで少年の王様、乱暴な得意顔で私の前を通り過ぎていく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ひどく風の強い日。死霊使いのように風は命のないものに束の間の命を与えます。蒼褪めたビルに四方を囲われているため昼間なのに仄暗い公園のベンチ。座り込み顔を俯く私の前でくるくると回り始めたのは大分前に散った椿の花びら。破れて黒ずんだ深紅のドレス。一人の少女がワルツを踊り始めたのです。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

黄色い花に忙し気な蜜蜂たち。両手を擦り合わせ石の上で日光浴している大きな蠅。虫を追って草叢を飛び跳ねる椋鳥たち。幼女も鳩を追い掛けている。ふと足元に映った黒い影。私は空を見上げる。太陽に煌々と亜熱帯の海のように青い空。ひらひらと一匹の揚羽蝶が黒い蜃気楼のように揺らめいていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

花はテーブルの上のフルコースのように止め処なく、飛び回る揚羽蝶、彼女の目の前へと現れるのだった。しかし彼女は少しもその料理にナイフやフォークを突き立てはしなかった。太陽のシャンデリア。ただ意味もなく優雅に、少しでもその幸福の予感を引き延ばし味わおうと羽根を動かし舞い踊るのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

青い空に五線譜。

可愛く並んだ燕の頭。

風が吹くたびに

黒い音符たちは揺れて

黄金色の旋律。

無重力の音階。

空の上に輝く主へと

こだまする清らかな讃美歌。

 

永遠の少年。

カストラートの歌声。

微塵も堕ちる事無く

微塵も汚れる事無く

眩い光輝に満ち溢れた

祝福の船出そのままに。

今年も彼らが 僕たちの街へ飛んできた。

五月そのものを歌いにきたんだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

御日様に犯されて

僕が産んだ一匹の影。

濃厚な夜色の体を揺らし、

彼は今、純白の砂浜で 無邪気に遊んでいる。

やがて夏、 蝉たちが鳴く頃、

僕は完全に消えて彼になる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

真夜中の二時過ぎ、

太陽から最も遠い時間。

老婆の囁くような声、

私は重い硝子窓を引いた。

痩せた驢馬が引く馬車の軋み、

黴だらけの白い窓枠の口腔、

深い井戸の底のような庭。

喪服を着た木々たちが

操り人形の手招きで

おいで。こちらにおいで。

顔のない顔で。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

銀色の埃が舞い踊る聖堂の廃墟。

オルガンの前に座る透明な少女。

割れた窓から入り込む五月の風。

朽ちた椅子に横たわる男の死体。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夜が見たい。海が見たい。夜の海が見たい。でも、私にはそれが決して見えない。私の光が夜を、海を、夜の海を汚してしまうからだ。光よ消えよ。私の光よ、消えてしまえ。私の光が完全に消えたとき、私は完全な夜を、完全な海を、完全な夜の海を見るだろう。しかし、そのとき、この私はもう居ないのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

白い空から降り続く霧雨。

繁華街の路地裏を傘も持たずに歩く。

すると視界の端にたんぽぽが映った。

可愛らしい小灰蝶が一匹、

丸く小さく萎んだその黄色い花にしがみ付いている。

まるで手毬を大事そうに抱えている少女のように。

私は息を呑んだ。

その瞬間、雨だけが動いていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

私の果てしのない欲望を映し出すのにこの鏡はひどく小さ過ぎる。私は女になりたい。私は男になりたい。私は蝶になりたい。私は蜘蛛になりたい。私は月になりたい。私は太陽になりたい。私は全部になりたい。激烈な雷鳴。鏡は粉々に砕け散った。さあ、旅に出よう。私を映し出す本当の鏡を探しに。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Ⅲへ続く