青い鳥の詩片Ⅰ
過去、twitterに投稿した詩の数々。
古いものから順に置いていきます。
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目を覚まして窓を開けると
夜の殻がひび割れていく音がした。
それはガスバーナーで赤い林檎を焼くような音であった。
それはまた野に潜む百万の仏僧が一斉に読経しているような音であった。
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首のない鳩の死体が街路の片隅に落ちている。
白い雪のように羽毛を散らし、裂けた肉からは細い骨が突き出ている。
数匹の小さな蝿が、地上に堕ちたイカロスを囲む天使のように、
周囲を旋回してはその小さな羽根を震わせて、死せる英雄に鎮魂曲を奏でている。
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私は嘘を吐く事が出来ない子供だった。
だから沢山の嘘を吐いた。
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熱帯夜。
酷く昼に近い夜。
しかし決して昼ではない。
太陽の熱をこれ程に肌で感じながらその太陽の姿はまるで見えない。
禍々しく狂おしい欲望が暗い温室の中で育ち始める。
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まるでたった今、灼熱のオーブン、その鉄の扉を開けて逃げ出してきたかのようなどす黒い犬。痩せ細った身体、真っ赤に充血している瞳、口からは爛れた舌を垂れ下げて火のような息を吐き散らす。そんな犬が私の家の庭の隅で黄色く燃える満月をじっと見ている。
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余りにも待ち焦がれていたものが目の前にあるとき、私は既にそのものを失ってしまったかのような喪失感に包まれる。だからそれを逃すまいと両手を広げる。私は今その喪失感に包まれている。私は今その両手を広げている。夏がやって来たのだ。
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幼い頃、幾度となく私は衣服を剥ぎ取られ、深く暗い井戸の底へ突き落された。静謐に包まれた死ぬ程寒い水の中。震えながら私は頭の上を見上げた。円く切り取られた目も眩むような空の光。美しかった。それは世界そのものだった。
私の半生はあの深く暗い井戸の底からの逃避だった。私は空の光の中で暮らし始めた。しかしそれは美しくなかった。地上の世界は美しくなかった。目も眩む美しい光はあの深く暗い井戸の底にあったのだ。私は自分の衣服を剥ぎ取った。再びあの懐かしき虚無の底へ身を投げた。
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窓から射す夏の陽光、乾いた風に白いカーテンが可愛く揺れている。胸が苦しくなるようなヴァイオリンの音色。肘掛椅子に座りながら私は絵を描いている。茶色の猫がそんな私の前をゆっくりと横切り、時計の針も合わせて遅々と進まない。
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ロマンティシズムの影には必ず死がある。たとえ死というものの具体的な形を取らなくても破滅や崩壊にそれは形を変えて現れている。死そのものが美しいのではない。死によって煌きを放つ生の輝き、闇夜に浮かび上がるその一瞬の火花に人は魅せられるのだ。
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私の神は何処に居る?ここはとても深くとても冷たくて何も見えない。私の神は何処に居る?
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永遠の遥か頭上に太陽が揺れている。黄金色の優しい光。ああ、しかし神様、私には翼がありません。太陽は答えない。途方に暮れて私はその沈黙に言葉を重ねていく。一段、一段、まるで祈るように。まるで階段を造るように。
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サンタクロースは冬の雪山で遭難した。以来、その村に彼が姿を現す事は無かった。5年経ち、10年経ち、70年経った。もう誰もがサンタクロースの事など忘れ去っていた。
しかし、ただ一人だけいまだにサンタクロースを待ち続けている老人が居た。それは子供の頃サンタクロースが一度も家にやって来なかった老人だった。凍えるとても寒い冬の日だった。誰にも知られることなく彼は雪山で死んだ。
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Ⅱへと続く。