稲葉真弓「エンドレス・ワルツ」Ⅱ

 凍らせたい(形を作りたい)男と氷になりたい(形になりたい)女。稲葉真弓は「エンドレス・ワルツ」でその二人、薫といづみに分裂したエロス(形、物への意志を飲み込んだ生へ)の意志を小説という形で再び結びつけ凍らせた(言葉にした)。印象的で且つ象徴的なのはいづみの切断された足の小指がホルマリン漬けにされたビンを薫が嬉しそうに友人へと見せびらかせる場面である。身の毛のよだつようだがその指はいづみ自身が衝動的に切り落としたのである。彼女の意志(エロス)そのものであるその指は硬いビンの中で凍り突きながらもきっとそれはあのゴッホの片耳のように吐き気がするほど生々しく燃えていたのに違いない。物でありながらしかし頑なに物であることを拒否する物。残されたいづみ彼女自身の写真も稲葉が書いたこの作品自体もそうだ。70年代、太陽の死とともに蒼い氷の都市と化していく街、生命無き物(氷)に溢れた逃げ場ない北の中で互いの肉と魂に激しく牙を突き立てのたうち回り絡み合いながらくるくると死ぬまで激しく踊り続けた二匹の透明な獣、身体を内側からを引き裂くようなその鋭い叫喚と異常に白熱した体温が開かれたページに並ぶ黒い墓碑銘を通して瘴気の湯気を放ち悪夢のようなその蜃気楼が吸い込む者を悉く真空の深い井戸の底で燃える地獄の太陽、いつも寒そうな彼女の瞳の中へと突き落す。