「私」が眠る。夢を見ているのは「私」の中の他者、無意識であり肉体の純粋認識者「彼女」。しかしその「彼女」すらも深く眠るとき、私はこの世界を純粋に映し出す鏡となる。その本当の夢、夢のなかの夢を思い出すことの出来る人、それが預言者なのだろう。
 「彼女」は遅く「私」は更に遅い。「私」も「彼女」も既に終わった「過去」の世界に存在している。「現在」をそのまま反映しているのは私の中の鏡だけだ。その「現在」の現実の世界を無限に映し出すだけの鏡。そこに「時間」はない。「私」の未来も「彼女」の未来もその「鏡」に映し出されている。今日起こること、今日「私」が認識することはもうとっくにその「鏡」に映っていて、つまりそれはもう既に終わっているのだ。
 「私」の中の鏡。それは私の中の死者、私の中の人形である。彼は「私」にとっても「彼女」にとっても彼方未来であるその彼岸に座り込んでただこの現実の「現在」をその瞳に映している。人形。あらゆる人形は遥か未来から来た使者なのだ。