鏡の中の人形

 

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 鏡を見る。そこに在るのは「私」でもなく「私」の肉体でもなく「私」と「私」の肉体の反映物、「私」と「私」の肉体に従順な人形である。何処へ探しにいかなくても人形はそこに居たのだ。今まで私は鏡を見たときにいつも奇妙な違和感、そこに私ではない誰かが何かが映っていると感じていたが、その印象は間違ってはいなかった。鏡に映っているのはいつも非私、人形なのだ。ナルシスは泉の水面に映る自分に恋をしたのではない。泉の水面に映る彼の人形に恋をしたのだ。

 鏡の中の人形、君との接吻はどうやら「私」や「私」の肉体に死を齎すらしい。それはきっと鏡の中の人形、君がこの世ではないあの世、認識の世界の彼方にある純粋な物の世界の住人だからだろう。鏡の中の人形、君は「私」と「私」の肉体の死そのものなのだ。