氷の下のマーメイド

白い靄のような
鏡の曇りが晴れて
淡い月光の射す
仄か暗い浴室を背に
裸の少女が立っている
肩まで伸びた黒髪は
浜辺の海草のように濡れて
古い写真の中の人間のように
まるで微動だにせず
長い睫毛の下の円い瞳は
遥か彼方を見つめている
氷の下のマーメイド
まだあどけない唇は
真夜中のオキザリスのように
固く沈黙に閉ざされて
繊細な顎の先から垂れた雫が
折れそうな首の表面を流れて
痛ましく尖った鎖骨の谷を通り
平らな胸の肌の上に溶けていく
何も見ず何も聞かず何も感じず
まるで遺棄された人形のように
熱帯魚も居ないイルカも居ない
凍えるような真空の海を
君は永遠にさまよい続けている

白い鳥の群れが
北の岬へと飛んでいく
梅の木の黒い枝先に
真っ白な雪の花が咲く
虚しい骸骨と化していく人々
氷の下のマーメイド
全部、君のせいだ
夥しい生け贄たちの血を吸って
しかし微かにも穢れずに
太陽の烈火が燃え尽きて
地獄の季節が終わっても
相変わらず深く眠り続ける君の
冬の澄んだ夜空に震える星々のような
きらきらと悲しい歌声が
あらゆる生命、存在を君の住む場所
清らかな沈黙の世界へと引き寄せるんだ