部屋のなかを一匹の小さな黒い蠅が飛んでいる。飛ぶことの楽しさを謳歌するように部屋を飛び回っている。高い空を飛ぶ鳥の黒い影を思わせる。

 高く広い空を飛ぶ鳥の姿が黒く小さな蠅のように見える。ということは、鳥たちには私が地上に張り付いた小さい黒い虫のように見えているのだろう。

 蠅は蠅であるのに、鳥は鳥であるのに、私は私であるのに、常に変身しているのだ、無数にいる観測者たちによって。私が私だと思っているものは無数に変化する私の姿のひとつの姿でしかない。