どんなに静かな日でも森に行けば風の音が聞こえる。数え切れないほどの木の葉が蜘蛛網で掬うように風の音を掬うのだ。それはいつも波の音のように聞こえる。森の中に居ながらに私は海を歩いているように思う。深い海の底に沈み込んだ貝のような或いは深海魚のような気持ちになる。その感情はきっと間違ってはいない。あの木々があの植物たちが思い出そうとしているのもきっと海だから。森はいつも海を見てる。青い葉々の波を何処までも広げて遥か彼方に喪われてしまった彼らの海を夢に見ている。