夜は夜などではなく

それは真昼の暗い影

宇宙は暗黒などではなく

それは太陽の暗い影

電灯も消され

鎧戸の閉め切られた

密室の完全な暗さ

それすらも影なんだ

いったい何の?

その光のない密室を

見つめる者の眼差しの光

彼の意識が暗い影をつくる

考えてもごらんよ

眼差しの光のない者にとって

その光のない密室が何なのかと

意識のない者にとって

この現実はどう映っているのかと

さっき道の角を曲がったとき

誰も乗っていないバスを見たんだ

車内灯もすっかりと消えていて

窓から覗けるその中は真っ暗だった

でもよく見るとそれは暗闇などではなく

全部影、人間の形をした影だった

吊革につかまる影

窓際に座り街灯りを見ている影

優先席に座って俯いている影

影だらけのそれは満員バスだった

たぶん僕の影もいたかもしれない

意識と意識の間の空白に影は居る

今も僕の君の後ろで息をしている

彼らはいったい何処へと向かう?

赤信号にしばらく停まって

無数の影たちを乗せたバスは

真昼の広大な影のなかへと消えていった