2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

窓を開けて 蒼い夜 凍える風に抗い 朱に染まる二つの頬 その熱い血潮 その火炎だけを私は崇拝する かつて溢れ返る林檎で楽園は燃えていた

強迫観念

人は継続して意識し続ける対象から現実感を享受し、その果実がたとえ有毒であっても、まるでたかる蠅のように、その果実を求めそこから離れられなくなる。いわゆる強迫観念と呼ばれるものもそこに萌芽する。 不安や憂鬱、そんな忌むべき暗い感情もそこに長く…

金色(こんじき)の 木の葉舞い降る 風の森 時の岸辺へ 帽子流れて

彼の見続けているものが彼にとっての現実になる。絶えず動き変化するものを見続けている者にとって絶えず動き変化するものが現実となる。そんな彼にとって動かず静止したものというのは非現実であり彼はその非現実に心が落ち着かず耐えることが出来ない。だ…

契約

路辺に咲いた蒲公英の花を見る。その場から過ぎ去る。振り返って再びその蒲公英の花を見る、或いは頭のなかにその蒲公英の花を思い描く、そのとき私は契約の印を押したのである。その蒲公英が私にとって現実だという契約の印を。契約は私がその蒲公英を現実…

夜は夜などではなく それは真昼の暗い影 宇宙は暗黒などではなく それは太陽の暗い影 電灯も消され 鎧戸の閉め切られた 密室の完全な暗さ それすらも影なんだ いったい何の? その光のない密室を 見つめる者の眼差しの光 彼の意識が暗い影をつくる 考えても…

風もなく 鳥降る庭の 葉はみやび 空の彼方に 雲は黒くも

すべての色が集まると白色になる。白は色の充溢であり飽和、色の自殺である。言い換えるなら、赤色であれ緑色であれ、色というものは白、完全な光そのものの欠損である。完全なものは目に見えない。感じ取ることができない。だから神は私の瞳に見えない。感…

少しずつ雲の断片が集まってきて、暗く重く大きな雨雲が形作られていく。今夜はきっと一晩中雨が降るのだろう。でもまだ静かだ。窓から見える庭は絵のなかの庭のようにまるで時間が止まってしまっている。それでも時折、何処からか小鳥ー四十雀や鶫ーが夢と…

月もなく 星もなく 数えきれない蝙蝠が さかしまに眠り込んで ぶら下がっている夜の空 輪廻の悪夢にうなされる 苔に覆われた老木たちの 甘く苦しい湿った嘆息や 足の裏に砕かれる 枯葉の甲高い悲鳴に混じって 草間から響く鈴虫たちの声が いにしえの朝から流…

休日の現実感

今日のような休みの日になると私は自分の部屋に引きこもりがちで、そうして自分の部屋で長くの時間を過ごしているとだんだん気持ちがそわそわと落ち着かなくなってくる。現実感が失われてくる。他の何処よりも意識が長く滞在し、それ故に他の何処よりも強く…

星もなく 裸木の並ぶ 夜の道 古代の霊が 鈴音振り撒き

街灯に 羽虫が煙る 秋の宵 枯れ葉踏む音 道に響いて

花の永遠

いいかね、彼らみずからが花のように、自然の中に生きていくこんなに素朴な日本人たちがわれわれに教えるものこそ、真の宗教と言えるものではないだろうか。 ーー硲 伊之助訳「ゴッホの手紙 中」より 生命とは皆水であり太陽の光と熱を反射する鏡である。暗…

椿

あらゆる生命の 夥しい血を吸って 純白の君は天に生まれる 花のなかの花、雪よ 今日もまた君への純愛が 青い葉のあいだに咲いた 彼ら殉教者の敬虔な唇は 慈愛に満ちた眼差しではなく 身を切り裂く冷たい風を求めて 炎、ただ極点の炎だけが 雪の沈黙にくちづ…

来光は 雲に隠され 暗い朝 幽かに響く 蟋蟀の声

早咲きの 椿の花は 色づいて 霞の空も 雪の白さに

澄み渡る 無辺の夜に 月も冴え 無人列車の 笛が高鳴る

北風に 狗尾草は そよめいて 夕月の下 帰る鳥たち

木漏れ日の 光みなぎる 切り株に 風が残した どんぐりの影

木枯らしに ながれる綿毛 たんぽぽの 夢はさまよう 灰の沙漠に

うろこ雲 黄金にわれて よみがえる すすきの丘に 鶺鴒の歌

揺り籠の喪失

わたしたちは、いろいろな罪をおかしたあげく、神から見捨てられた人間になってしまったのにちがいない。宇宙の詩をまったく失ってしまったのだから。 --シモーヌ・ヴェイユ「重力と恩寵」より 揺り籠、終わることのない反復への憧れ、法というものに対す…